インプラント

インプラント治療とは人工歯根による歯の修復治療のことです。当科でおこなっているインプラント治療についてご説明します。

1. デンタルインプラントとは?

"インプラント治療"とは人工歯根による歯の修復治療のことです。人工歯根のことを英語でデンタルインプラント(Dental Implant)と呼びます。現在世界中でもちいられているインプラントは生体との親和性が高い純チタン製です。インプラントを顎骨の中に植立させて一定の治癒期間後には、インプラントの周囲に新しい骨が取り囲み、インプラントと骨の直接結合が得られます。現在はこの骨結合型インプラントシステムがデンタルインプラントの主流となっています。

2. 骨結合型インプラントの治療成績は?

骨結合型インプラントの成功率は、下顎前歯部で約99パーセント、下顎臼歯部で96パーセント、上顎前部で約94パーセント、上顎臼歯部で約88パーセントです。これはUCLA歯学部口腔インプラントセンターにおけるデータですが、他の研究機関からもほぼ同様の成績が多数報告されています。

3. 他の治療法の選択肢は?

インプラント治療以外の方法によっても咀嚼機能の改善は得られます。歯が欠損した場合には、歯の欠損形態や欠損本数によって、下記の治療法の選択が可能です。特に残りの骨がきわめて少ない患者様や何らかの基礎疾患をお持ちの患者様には、インプラント治療が適当ではない場合もあります。

(1)架橋義歯(残存した歯をつないだブリッジ)
力学的に十分耐えられる状態の残存歯がある場合には、ブリッジという方法は予知性の高い方法の一つです。しかし健康な歯を削らなくてはならない場合もあり、長期的にみると虫歯や歯周病になりやすいケースもあります。
(2)可撤性義歯(取り外しの入れ歯)
よく合った取り外しの入れ歯では、食事や会話に苦労することはほとんどありませんが、多くの場合食事がある程度制限されたり、入れ歯の内側に食べ物の残りかすがたまったり、外れたり、また支えとなっている歯の負担が大きくなり、歯肉や歯を痛めることもあります。
(3)歯牙移植
口腔内の歯のうち、将来必要としない埋伏歯や咀嚼機能上必要としないと判断される歯(親知らず)を、欠損部へ移植する場合があります。この方法は移植歯が根未完成歯の場合や移植部位の形によく合う場合は予知性の高い方法だといわれています。しかし、前歯部の欠損に親知らずを移植しても歯の形態が臼歯部とはことなるため、審美的な修復は簡単ではありません。
(4)何も入れない
口の中に入れ歯やインプラントなどの異物を入れることが嫌な場合には、欠損部位に何も入れないことも治療法の一つの選択枝として可能です。しかし歯を入れない場合には反対の顎の歯が延び、噛み合せが悪くなったり、場合によっては顎の変形や顎関節に異常をきたすことがあります。

4. インプラント治療の流れ

1. 診査と治療計画
インプラントの治療において術前の診査と治療計画がとても大切となります。インプラントを植える骨の量、質、粘膜の状態だけでなく、糖尿病や心疾患などの全身疾患との関係も不可欠となります。虫歯や歯周病がある場合は治療が必要となります。 手術前までには、正しい歯の磨き方の訓練と歯石の除去が必要となります。症例によっては手術前後に、保存不可能な歯の抜歯や歯科矯正治療が必要となる場合もあります。
2. 手術の準備
インプラント植立の前には歯の型を取り、最終的なできあがりの状態を模型上で再現します。またサージカルステント(注1)を製作し、残っている骨の状態をレントゲンで詳しく調べます。これらの資料を参考にしてインプラント体の埋入位置、上部構造の様式、骨移植の必要性を診断します。
(注1)サージカルステント:手術時にインプラントの植立位置、角度、深度を正確に合わせるためのプラスチック製のガイド
3. インプラントの植立手術
手術は清潔な手術室で局所麻酔下・静脈麻酔下あるいは全身麻酔下でおこないます。一般的に1本から5本のインプラント植立は外来通院でおこないますが、植立本数が多い場合や骨移植を必要とする場合には入院して手術をおこないます。
手術はスクリュー型のインプラントを、サージカルステントにしたがって顎骨の理想的な位置に植立します。インプラントと骨がなじむには通常2ヶ月から6ヶ月程度の治癒期間を必要とします。
4. アバットメント連結(二次手術)
インプラントが骨結合したら、ヒーリングアバットメント(粘膜貫通部品)を連結します。この状態で歯肉や軟組織が治癒するのを6週間から8週間程度待ちます。
5. 上部構造の装着
歯肉の治癒後に、上部構造を製作するための型をとります。なお、型を取るための回数や通院回数は症例によってことなります。
歯の形や色を決め、上部構造を人工歯根に固定します。症例によっては仮の歯を2ヶ月から6ヶ月入れて、歯肉やかみ合わせが落ち着くのを待ちます。
また、歯並びの悪い(歯列不正のある)患者様ではインプラントを土台として矯正治療をおこなう場合もあり、6ヶ月から1年程度の矯正治療後に最終の上部構造を製作します。上部構造は通常ネジ式かセメント固定式になります。
6. 定期検診
インプラントの長期の成功には、セルフメインテナンスに加えて歯科医師による上部構造のネジのゆるみの確認、咬合調整、歯周診査や歯科衛生士によるプロフェショナルクリーニング(口腔清掃、歯石除去、表面研摩)などの定期検診は欠かすことができません。インプラントの清掃は予後の安定に極めて大切となります。

5. インプラントを埋入する骨がない場合は?

インプラント埋入のための骨がない場合にインプラントを希望される場合は、骨移植という方法があります。
これは将来インプラントを埋入する場所を移植により作ります。これらの手術には入院が必要となる場合がありますが、これによりインプラント治療が可能となります。

6. インプラントは天然歯と同じですか?

インプラントは直接骨と結合するため、天然歯に存在する歯根膜がありません。歯根膜とは歯と骨をつなぐ靱帯のことでその中には知覚神経が存在し、硬いものや軟らかいものの識別ができます。
また、天然歯では結合組織や上皮は比較的強固に歯頚部で結合していますが、インプラントではその結合の度合いが弱くなっています。このため、インプラントの清掃を怠ると炎症が起こりやすく、歯肉が腫れたり、インプラント周囲の骨が破壊されひどい場合にはインプラントが抜けてしまいます。
こうしたことを防止するために、インプラントでは天然歯と同じぐらいかそれ以上の歯磨きの励行が大切となります。インプラントでは歯根膜を欠きますが、通常2ヶ月から3ヶ月後には食べ物の食感がある程度分かるようになり、咀嚼機能は大きく改善します。
また、審美性については、個々の患者様で残っている骨の量や形、さらに歯肉の厚みや色により審美改善の程度は異なり、天然歯とまったく同じものに仕上げるのは容易ではありません。

7. インプラント義歯による噛む能力(咀嚼(そしゃく)機能)は?

学術論文による骨結合型インプラントによる咀嚼機能改善を下記にご紹介します。

咬合力計や食品粉砕咀嚼検査法を用いたインプラント装着患者の咬合力および咬合咀嚼能率を測定したところ、インプラントでは切歯部の平均は15.6キログラム、臼歯部は33.8キログラムを示し、天然歯の13.2キログラム、32.0キログラムと比較しほぼ同等の咬合力を得ることができると報告されています。
また咀嚼能率はインプラント装着患者では43パーセントを示し、通常の義歯装着患者(35パーセントから38パーセント)よりも大きいことが示されています。上下の歯の間に介在させた薄膜の認識試験では、天然歯列で20μm(マイクロメートル)、インプラント義歯装着患者で50μm(マイクロメートル)、従来の義歯装着着患者で100μm(マイクロメートル)との報告がされており、インプラントによる食感の改善が得られることがわかっています。

8. 治療期間はどのくらいですか?

インプラント治療では、まずインプラントが骨と結合するのに、通常下顎では2ヶ月から3ヶ月、上顎では3ヶ月から5ヶ月かかります。骨移植を伴う症例では、通常では移植してから3ヶ月から4ヶ月の治癒期間の後にインプラントの埋入が可能となります。
一度喪失した歯をインプラントを用いて再生する治療は手間と時間がかかりますが、生体の反応に応じた科学的なステップを踏むことで成功率が高まります。患者様により治療期間はことなりますので、それぞれの治療期間については担当医師によくご相談ください。

9. インプラント治療はすべての人に適していますか?

(1)インプラント治療に適した患者様
適しているかどうかの第1の基準は、残っている骨の量に関係します。手術部位の骨が十分で感染などの異常がなく、隣在歯の歯根に病巣がなく、歯周病がコントロールされていることが重要となります。術前に歯周病のスコアーが改善しない場合には手術は延期となります。重篤な全身疾患などがなければ、高齢者の方でも治療は可能です。また、事故や手術により歯や顎の骨などが欠損した場合などで通常の入れ歯が入らない症例に対してもインプラントにより咀嚼機能の改善が可能な場合もあります。
(2)インプラント治療に適さない患者様
あごの骨の量が少なくインプラント植立が不可能な方、アルコール依存症および覚せい剤使用者、チタンにアレルギーのある方、勤続ヘビースモーカーで、術前・術後の禁煙が不可能な方、糖尿病のコントロールが良くない方、その他の重篤な全疾患をお持ちの方、医師と協調が得られないような方、以上のような患者様はインプラント治療には適しません。

10. 合併症、偶発症、後遺障害にはどんなものがありますか?

当科でおこなうインプラント手術に関しては、通常は問題となるような重い障害がおこることはほとんどありません。
しかしながら、どのような手術や治療においても、問題が起こる可能性はゼロとはいえません。特に顎骨内に異物を埋入するようなインプラント治療では、多様な合併症、偶発症、後遺障害の可能性があることを十分にご理解ください。

(1)手術に伴うもの
手術に伴う合併症、偶発症、後遺障害は、おもに機械的損傷、創部の腫張、および術後の腫れが原因として考えられます。また、時期的にみると手術時から短期的に認めるものと、長期的に症状が固定されるものに分類されます。以下に、起こる可能性のすべてではありませんが、代表的な臨床症状と対応の概説を示します。
【手術時から短期間のもの】
臨床症状
出血、術後の腫れ(発赤腫張)、痛み、熱皮下出血斑(青あざ)ができ、まれに、口唇の知覚異常(くちびるがピリピリするなどの感覚異常)、開口障害(口が開きずらい)、顎関節の痛みや音がする、口角炎などがあります。また細菌感染や創部が開く(傷が開く)と治癒が遅れる場合もあります。
きわめてまれなことにはインプラントの上顎洞への迷入、ドリリングのバーの破折、パーツ器具の誤嚥・誤飲、隣接歯の切削、隣接歯の脱落、歯槽骨骨折、下顎骨骨折等の可能性があります。
対応
上記の手術中の出血を合併症、偶発症などについては患者様に最善と思われる処置を適切におこないます。また外来通院による手術においても、担当医が局所および全身的に管理が必要と判断された場合には入院していただく場合もあります。また、手術直後から数週間以内の通常に見られる術後の腫れ(発赤腫張)、痛み、熱皮下出血斑、(青あざ)症状に対しては指示された抗生剤の服用や場合によっては抗生剤の点滴、軟膏の塗布でほとんどのケースは数週間で自然に改善します。まれではありますが感染が続いたり、骨が露出するなど局所治癒が遅れる場合には高気圧酸素療法を併用することもあります。
また、治癒が長引いたり遅れる場合には自宅で安静療養が必要になります。これらの点に関しまして詳細を知りたい方は担当医にお尋ねください。
【長期的なもの】
臨床症状
唇や舌の知覚麻痺(感覚がなくなる)が継続したり、骨髄炎、骨膜炎、骨壊死、副鼻腔炎(上顎洞炎)などあります。
対応
こういった術後の長期的な合併症、偶発症、後遺障害については、患者様に最善と思われる処置を適切におこないます。例としては、当院では舌や口唇知覚神経麻痺についてビタミン剤を中心とした薬物療法や星状神経節ブロックなどの治療をおこなうことができます。また、インプラント周囲の骨に炎症が継続する骨膜炎、骨髄炎に対しては抗生剤の投与や高圧酸素療法をおこないます。さらに、上顎洞炎などになった場合は、原因と考えられるインプラントの除去や上顎洞洗浄や感染部位を取り除く手術を必要とします。これらの点に関してさらに詳細を知りたい方は担当医にお尋ねください。
(2)上部構造の歯にともなうもの
インプラント以外の歯の治療と同様に、極めて硬いものや石などを噛むと上部構造である陶材(セラミック)の人工の歯は割れることがあります。また、インプラントはネジ固定式あるいはセメント固定式でできており、歯を固定した小ネジのゆるみや破折が生じる可能性があります。
通常のネジのゆるみは、決められた定期検診にお越しいただいている患者様では問題となることはほとんどありません。また、時間の経過とともに上部構造の歯や歯肉の変色の可能性があります。
(3)インプラント体の破折と脱落
過度の力が加わったり、インプラント周囲の炎症が続くとインプラントの破折や脱落が起こります。特に歯ぎしりの強い患者様では、こうした偶発症を防止するためにナイトガードの装着を指示させていただいております。
破折したインプラントは通常は除去し、可能であればインプラントの再埋入をおこないます。一方、破折したインプラントの周囲の骨が健康である場合は、除去しないでそのままで経過観察する場合もあります。
(4)インプラントが骨と結合しない場合
骨結合インプラントの治療成績で説明したように、インプラントの生着率は100パーセントではありません。特に、下顎に比べて上顎はやや成績が下がります。もしもインプラントが骨と結合しない場合は、同一部位への再埋入の予後はあまりよくありませんが、一定の治癒期間をおいてインプラントの再植立をおこなう場合があります。
(5)その他(喫煙の影響)
喫煙と骨結合型インプラントの予後については多数の報告がされており、喫煙者と非喫煙者を比較した報告では、喫煙者での失敗は2倍から3倍になります。特に上顎にインプラントを埋入した場合には、煙は直接の刺激となるばかりではなく、鼻腔や副鼻腔からも骨や粘膜に悪影響を与えます。
当科ではインプラント治療を希望される患者には、禁煙もしくは節煙(少なくとも手術の1週間前より術後8週間は禁煙)を指導させていただいております。また、ヘビースモーカーの方は申し訳ございませんが治療の対象とさせていただいておりません。

11. 定期検診は必要ですか?

天然歯の健康を維持するためにも1年に1度の検診とスケーリングが必要となります。インプラントによる新しい歯を長くもたせるには、歯科医師による咬合診査や医師や歯科衛生士による歯周検査とプロフェショナルクリーニング(口腔清掃、歯石除去、表面研磨)などの定期検診は必要です。
上部構造装着の1週間後、2週間後、4週間後、2ヵ月後、3ヵ月後、6ヵ月後、9ヵ月後、1年後、以下経時的に最低1年に1度の定期検診をおこないます。インプラントの喪失は、多くの論文によって上部構造装着後1年未満であり、最初の1年間の定期検診はきわめて重要となります。上部構造装着後1年以降も経年的な臨床検査と観察が必要とされますが、プロフェショナルクリーニングは保険適用されず自費となります。

12. 壊れたときの費用は?

当院では、インプラントの脱落や上部構造の破損などが患者様の不注意や故意でない場合、指示された定期検診をきちんと受けていた場合、口腔清掃の自己管理がきちんとおこなわれていた場合、指示されたナイトガードを装着されていた場合は、上部構造装着後3年以内であれば、無償で修理をおこないます。定期検診をお受けにならない場合は、申し訳ございませんが3年以内であっても無償修理の設定はいたしかねます。
機能する上部構造は金属、ネジ、ポーセレン、レジン(プラスチック)から構成されており、基本的には消耗します。このため、3年経過以降に修理や再作製が必要になった場合には、別途費用をご相談させていただきます。なお、ご不明な点はお気軽に担当医師にご相談ください。

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