社会医療法人北斗
普段から健康的な生活をしているひとは、脳の活動も健康的【Regular physical activity affects brain activities in oldindividuals:an observational study】が国際科学雑誌PLOS Oneに掲載
概要
認知症は、アルツハイマー病などの脳の病気がきっかけになり、認知機能が低下することによって起きる「状態」のことを言います[1]。しかし脳の病気が重症にもかかわらず、認知症にならない人もいれば、脳の病気が軽くても、認知症になる人がいることも知られています[2]。この「脳の病気の重さ」と「認知症の重さ」がずれる原因として、「認知の予備能(Cognitive Reserve)」[3,4]があると考えられています。認知の予備能とは、普段使っていない「認知機能の預貯金」みたいなもので、認知の予備能が多いと、アルツハイマー病などの脳の病気が進行しても、なかなか認知症にはならないという訳です。認知の予備能は、生活習慣で増えも減りもすると考えられており、認知症の予防や治療の鍵だと近年注目を集めています[5]。ただ認知の予備能は、神経細胞の数や脳の大きさで決まるわけではないのでMRI などの画像診断で測ることはできず、はっきりした評価方法がありませんでした。しかしこの研究で、「脳磁図検査を利用することで、認知の予備能を測ることができるらしい」ことが明らかになりました。この発見の科学的重要性が証明され、この度国際科学雑誌 PLOS One に掲載されることとなりました。
一般に運動習慣がある人は、無い人に比較して認知の予備能が高いと考えられています[5]。そこで運動習慣がある人を「認知の予備能が高い人」、習慣が無い人を「認知の予備能が低い人」の代表と考え、脳磁図検査を受けた約300人のデータをつかって、脳活動のパターンの違いを分析しました。その結果、認知の予備能が高い人(運動習慣がある人)は、特有の「脳活動パターンがある」ことが明らかになりました。つまり脳磁図検査で脳活動パターンを調べれば、その人がどの程度認知の予備能があるかが推定できるわけです。私たちは過去の別な論文で、同じ患者が生活習慣を改善し、認知の予備能が高くなるような生活をすると、この脳活動パターンになることをすでに証明している[6]ので、これらの結果を合わせると、脳磁図検査を行うことで、認知の予備能を評価しながら、認知症の的確な治療を行うことができると言えます。なお、脳磁図検査は十勝リハのものわすれ外来で、検査の一部としてすでに利用しています。
参考文献
1.日本神経学会. 認知症の定義 概要 経過 疫学. In: 認知症疾患治療ガイドライン2010.2010.
2. Iacono D, Markesbery WR, Gross M, Pletnikova O, Rudow G, Zandi P, et al. The Nun Study:Clinically silent AD, neuronal hypertrophy, and linguistic skills in early life. Neurology. 2009;73(9):665–73.
3. Stern Y. Cognitive reserve. Neuropsychologia. 2009 Aug;47(10):2015–28.
4. Stern Y, Arenaza-Urquijo EM, Bartrés-Faz D, Belleville S, Cantilon M, Chetelat G, et al.Whitepaper: Defining and investigating cognitive reserve, brain reserve, and brain maintenance. Alzheimer’s Dement. 2020 Sep 1;16(9):1305–11.
5. Livingston G, Huntley J, Liu KY, Costafreda SG, Selbæk G, Alladi S, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024 Aug 10;404(10452):572–628.
6. Hirata Y, Hoshi H, Kobayashi M, Shibamiya K, Fukasawa K, Ichikawa S, et al. Monitoring the outcomes of non-pharmacological treatments for cognitive impairment using magnetoencephalography: A case series. Clin case reports. 2023 Jan 1;12(1):e8385.
掲載URL
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0326163
社会医療法人 北斗について
北斗は、1993年に帯広市で脳神経外科を中心に、北斗病院を開設。道東・十勝圏域において急性期から在宅医療まで、シームレスに医療・介護を提供しています。「革新に満ちた医療への挑戦と新たなる組織価値の創造」を理念に、高度先進医療への取り組みも積極的で、デジタルPET-CT や経頭蓋MR ガイド下集束超音波治療、遺伝子診断など、さまざまな技術を取り入れています。脳磁計測システムは2004年に導入。最近は海外から脳磁計の専門家の参画を実現し、精力的な運用を行っています。また医療界における新しい潮流である「精密医療」を新たなテーマとして掲げ、患者一人ひとりに最適な治療を、効率的に選択するために、遺伝子診断や脳磁計を含む脳機能画像イメージングを応用することに注力しています。2013年には十勝地方のリハビリテーション担う十勝リハビリテーションセンターを開設。リハビリテーションスタッフ・看護師を始め全ての職員がチーム一丸で患者に寄り添うリハビリを提供。更にはロボットや電気刺激装置、磁気刺激装置を使用した最先端のリハビリテーションを実践しています。詳しい情報は、こちらをご覧ください。
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プレスリリース:普段から健康的な生活をしているひとは、脳の活動も健康的【Regular physical activity affects brain activities in old individuals:an observational study】が国際科学雑誌PLOS Oneに掲載(PDF形式)