写真
急性大動脈解離は、大動脈壁が中膜レベルで2層に剥離し、動脈走行に沿ってある長さを持ち2腔になった状態と定義されています。動脈壁は、内膜、中膜、外膜の3層構造となっています。内膜に亀裂が生じ、そこから血流が内膜と中膜内に入り、血管が2つ以上に裂けていきます。高血圧に伴う動脈硬化や生まれつき動脈壁の構造異常にある人が起きやすいとされます。

 

 

 

急性大脈解離の自覚症状は?

血初発の症状として多いのは、突然の背部痛・腰痛、血圧の左右差です。血管が裂けることによって、痛みが移動する、今までに経験したことのない激烈な痛みであり、発症した方の約80~90%の人に起こります。また、血圧の左右差は通常ありませんが、血管が裂けることによって血流が低下し、約50%の人に血圧の左右差が起こります。そのため、これら2つの症状が突然出現すると、大動脈解離を疑い検査を進めていくことになります。また、大動脈の根元から心臓にかけて破けて、心臓の周りに血液が溜まることや、血管が裂けたことで脳への血流が低下すると、意識消失を起こす人もいます。このような場合には、脳梗塞や脳出血との鑑別が重要になります。

 

 

急性大動脈解離の検査方法

基本的に確定診断できる検査は、造影剤を用いた全身CT検査になります。それ以外の、全身状態や手術前評価としては、頭部CTや心臓エコー検査がありますが、今後の治療方針を決定するのは前述の造影CT検査です。腎機能が低下している場合でも、造影剤使用後の一時透析を視野に入れて検査を行います。

 

 

 

急性大動脈解離の分類

造影剤を用いた全身CT検査を行うことで、急性大動脈解離の裂け目の場所や解離している範囲から分類をして方針を決めていきます。分類にはStanford分類とDeBakey分類があります。また、血管が裂けたことにより、もともとの血管の内腔である真腔と裂けて新しくできた偽腔があり、この偽腔への血流がすぐになくなり、血栓化した場合を早期血栓閉塞と言います。

 

 

急性大動脈解離の治療法

降圧治療を開始して血圧コントロールを行い、痛みが強いときは、モルヒネなどの麻薬を使用します。痛みが強いことで血圧が高くなることが、破裂などの危険性を高めるからです。先ほどの分類を考慮して、上行から弓部大動脈に解離がある場合は、基本的に緊急手術になることが多いです。裂け目が下行大動脈にあり逆行性に裂けた場合や偽腔が血栓化している場合には、降圧治療を先行し、その後状況によって手術を考慮することもあります。手術は人工心肺を用いて心停止、全身の循環停止にします。脳には選択的順行性灌流を行います。裂け目の始まりの部分を人工血管に置換する手術となり、裂け目の部分によって術式が変わります。

 

 

 

急性大動脈解離の疫学と予後について

年間の発症頻度は、2.6~5.2人/10万人とされており、約70%が男性と言われています。夏場に少なく、冬場や季節の変わり目(4月、10月)に多く、日中や夜間よりも朝6-9時にかけて発症することが多いとされています。発症の2/3がStanford A、1/3がStanford Bとされています。病院に運ばれるまでに約60%の人が亡くなっているとされており、直接死因としては、大動脈破裂が約98%を占めています。臨床現場では、Stanford Bの大動脈解離の方が多いイメージがあるのですが、それは先述の通りStanford Aの場合、多くの人が発症直後に亡くなっているためです。

 

 

 

急性大動脈解離の発症を防ぐことはできるのか?

大動脈解離の発症と血圧には大きな関連があり、血圧をコントロールすることは発症を100%防げるとは言えませんが、予防において重要であると考えます。人間は日常生活する上で、血圧の変動があるのは当然です。高血圧の人が食事制限、適度な運動、場合によっては薬を内服することは必要ですが、さらに、血圧サージやヒートショックのことを知った上で、ちょっとしたことに気をつけていくことが、しっかりとした血圧コントロールに繋がっていきます。

 

 

血圧サージ/日常生活の行動における血圧の変化

血圧サージとは英語で「波のように押し寄せる」という意味で、瞬間的な血圧の急上昇が高波のように押し寄せる現象のことをいいます。血圧が急上昇すると、血管には急激に大きな圧力がかかるため、血管を傷めてしまう原因ともなります。

 

 

 

 

 

 

ヒートショック/入浴時の血圧変化と疾病リスク

ヒートショックとは気温の変化によって血圧が上下し、心臓や血管の疾患が起こることをヒートショックといいます。この血圧の乱高下に伴って、脳内出血や大動脈解離、心筋梗塞、脳梗塞などの病気が起こります。

 

 

早急な治療が生存のカギ

急性大動脈解離は発症すると様々な病態を引き起こし、突然死に繋がる病気の一つです。この病気を100%予防できる方法はありませんが、高血圧などの既往がある人は、注意することでその発症リスクを減らすことが可能と思われます。高血圧自体は、サイレントキラーと呼ばれる通り、血圧が高くなったからすぐに病気を引き起こすわけではなく、時間が経ってから時限爆弾のように爆発して、様々な病気を引き起こします。心筋梗塞、脳梗塞や心不全の原因にもなり、血圧をコントロールすることは、急性大動脈解離以外にも様々な病気の予防に繋がっていきます。もし、経験したことのない我慢のできない背部痛を自覚した場合には、無理をせずに病院を受診したり、救急車を呼ぶことが肝要です。当院は24時間365日救急外来を行っており、心臓血管外科にいつでも連絡が取れる体制を構築しています。

 

 

 

心血管・不整脈センターへ戻る

外来予定表など 北斗クリニック 心血管・不整脈センターはこちら