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脳の血管が詰まり酸素や栄養が送られなくなってしまうと、脳細胞が壊死を起こし脳梗塞が発生します。脳の機能を維持する上で重要な部分に脳梗塞が発生すると、運動麻痺や言語障害、高次脳機能障害や意識障害が生じてしまい、日常生活に支障を来すような後遺症が残ってしまうこともあります。一度発生した脳梗塞を完全に元に戻すことは現代の医学では不可能であるため、健康な生活を維持するためには脳梗塞をしっかり予防し、発生させないことがとても重要になります。

 

脳梗塞の分類~脳の血管が詰まる3つの原因~

ラクナ梗塞
脳の中でも0.5mmに満たない非常に細い血管が、高血圧などで変性を起こすことで閉塞します。脳梗塞としては小さくて軽傷とされますが、たとえ小さくても強い麻痺などを生じることがあります。

 

アテローム血栓性梗塞
血管が動脈硬化を起こして狭窄し、脳の血流が落ちたり、狭窄している場所から血栓が飛んだりすることで脳梗塞が発生します。アテローム血栓性の場合、脳梗塞の重症度は狭窄している血管の太さや状況により様々です。

 

心原性脳梗塞症
心臓からの血栓が脳に詰まるタイプの脳梗塞です。心臓でできた血栓は、小さくても脳の主要な血管(2~4mm程度)を詰まらせてしまうには十分な大きさであり、重大な脳梗塞を起こしやすいと考えられています。多くは心房細動という不整脈が原因となっていますが、その他の心疾患が原因で発症することもあります。

 

 

脳梗塞の診断方法

突然の神経脱落症状(片麻痺・失語・構音障害など)を来した場合、頭部の画像検査を実施します。特に発症早期の脳梗塞については、頭部CTよりも頭部MRIでの診断がより正確であるため、当院では頭部MRIを中心に脳梗塞の検査を行っています。MRIで脳梗塞が確認された場合は、前記したの3つの脳梗塞のうち、いずれのパターンに入るのかを頭部や頸部血管、心電図などをもとに判断し、それぞれに応じた再発予防の薬剤を決定します。ただし、脳梗塞は一度起きてしまうと回復しにくい病気であるため、先にも述べましたがまずは発生させないように予防することが非常に重要です。

 

 

脳動脈瘤の予防方法

 

 

 

脳梗塞の治療〜開頭手術〜頚動脈内膜剥離術(CEA)

頚動脈内膜剥離は、頚部内頚動脈狭窄に対して行う治療法です。基本的には内科的治療が優先されますが、狭窄が強い場合やプラークが柔らかい(塞栓の原因となります)症例など、内科的治療で対応が困難な場合に、外科治療が必要となります。治療法は、頚動脈内膜剥離術と頚動脈ステント留置術があります。頚動脈内膜剥離術は、頚部を切開して頚動脈を露出し、血管を切開してプラークを摘除します。病変を直接処理してきれいにできる利点があり、特に柔らかく脆いプラークの場合は脳塞栓リスクの点で内膜剥離術の方が勧められます。

 

 

脳梗塞の治療〜血管内治療〜頚動脈ステント留置術(CAS)

多くは右足の付け根から血管を穿刺して、カテーテルを用いて頚動脈狭窄を治療します。血管の中を通過させつつ治療器具を狭窄部まで誘導し、バルーンという風船で狭窄部分を膨らませながら、ステントという金属の網を敷いて血管を拡張させます。プラークがある部分の血管を風船で押し広げるため、柔らかいプラークが脳へ飛散してしまう可能性もあり、塞栓防止デバイスという機器を使って、脳の血管を守りながら治療を行います。局所麻酔での手術が可能で、非常に短時間で終了するため、体の負担が少ない一方で、柔らかい液状のプラークが豊富な場合は脳梗塞を起こしてしまうリスクが、頚動脈内膜剥離術(CEA)と比較して高いと言われています。また、プラークが石灰化などで非常に硬くなっている場合などは、バルーンで膨らませることが困難であり、頚動脈ステント留置術(CAS)が難しくなることもあります。

 

 

脳梗塞の治療〜血管内治療〜血栓回収術

心原性脳塞栓症は、非常に予後の悪い脳梗塞として知られており、かつては発症したらそのまま寝たきりになってしまう患者様がほとんどでした。しかし、近年ではカテーテル治療の進歩により、脳に詰まった血栓を除去する方法で治療が可能になっています。「ステント」という金網のような道具や、「血栓吸引カテーテル」という、掃除機のノズルのような道具で、血栓を絡め取ったり吸い取ったりして、血栓を除去します。心臓からの血栓に対してのみ有効とされており、かつ、発症早期の患者様にのみに治療対象は限られていますが、かつては手の施しようがなかった重症な脳梗塞に対しても治療が可能となり、当院でも積極的にこの治療法を実施しています。

 

 

脳梗塞の治療〜開頭手術〜バイパス術

脳の太い血管が閉塞あるいは高度の狭窄を起こし、脳の血流が不十分となってしまった患者様が対象となる治療法です。その状態のままだと血流が不十分な部分が脳梗塞となり、麻痺や失語等の後遺症となってしまいます。バイパス手術をすることにより、脳の血流量を補い、脳梗塞を予防します。脳の血管がそのようになってしまうのは、動脈硬化による場合が多く、他にも「もやもや病」や「膠原病」などの血管炎による場合などがあります。手術は頭皮の血管(浅側頭動脈がよく用いられます)を脳表の血管につなぎます。慢性期に行うのが一般的ですが、脳梗塞が進行し症状が増悪していく症例には急性期にバイパス手術を行い、脳梗塞の進行を食い止めることができた症例もあります。

 

 

脳血管障害を予防・適切に管理することは健康寿命を長く保つことに貢献します

2009年に大阪公立大学を卒業後に臨床研修医を経て、以後は脳神経外科医として診療に従事しています。脳梗塞や脳出血など、多くの脳卒中患者様に接する機会がありますが、それらの疾患が発生した後では、多くの患者様が不自由を感じながら日常生活を過ごすことになってしまいます。よって、脳血管障害予防の大切さを日々痛感しながら診療に携わっています。まずは、生活習慣や生活習慣病に気をつけて頂きながら、脳卒中になりにくい体を作って頂くことが、健康を維持するためには何より重要だと考えます。脳神経外科医としては、脳ドック検診などを通じて、地域の皆様の脳疾患の予防に貢献したいと考えています。また、万が一脳疾患が起こってしまった場合にも安心して治療を受けて頂けるような環境作りを目指しています。