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股関節の痛みの主な原因である「変形性股関節症」「大腿骨頭壊死」「大腿骨寛骨臼インピンジメント」に対する手術による治療法として、傷んで変形した股関節患部を人工関節に置き換え、股関節の機能を回復させるのが人工股関節置換術です。この手術を受けることによって、関節は滑らかに動くようになり、劇的に痛みは改善し、患者さまの満足度が最も高い外科的治療の1つとされています。手術では、まず変形した大腿骨頭を切除し、傷んだ寛骨臼の表面の骨を削って取り除きます。寛骨臼側には金属のカップを骨に固定し、大腿骨の骨の中にステムを挿入し、その先にセラミック製の人工の骨頭(ヘッド)を設置します。ヘッドとカップの間にはポリエチレン製の緩衝材(ライナー)を入れ、滑らかに動く構造になっています。

 

 

 

 

変形性股関節症

変形性股関節症は、中高年の股関節の痛みの中で最も多く、股関節の軟骨が徐々にすり減ることで関節の変形や炎症が生じ、痛みや可動域の制限を引き起こす代表的な疾患です。日本人には先天的に寛骨臼の面積が狭い臼蓋形成不全が多く、股関節の不安定性や一部に負担がかかることにより関節軟骨がすり減っていきます。変形性股関節症は進行性の病気なので、いったん変形してしまった股関節を元に戻すことはできません。初期には動き始めや長時間歩行後に違和感や軽い痛みが現れ、進行すると安静時にも痛みを感じることがあります。進行例では歩行困難や生活動作への影響が生じます。

 

 

 

大腿骨頭壊死

大腿骨頭壊死は、大腿骨の先端部分である骨頭への血流が何らかの原因で障害され、その部分の骨が壊死してしまう疾患です。初期にはほとんど自覚症状がないこともありますが、進行するにつれて股関節の痛みや可動域制限が現れます。早期発見にはMRIが有用ですが、日常生活が制限される場合には手術が必要です。

 

 

 

大腿骨寛骨臼インピンジメント

大腿骨寛骨臼インピンジメントは、股関節を構成する大腿骨頭と寛骨臼(骨盤側の受け皿部分)の形状異常や適合不全によって、運動時に骨同士が衝突しやすくなり、軟骨や関節唇に損傷や炎症が生じる疾患です。初期には運動時の股関節の違和感や痛みがみられ、進行すると関節軟骨の損傷が進み変形性股関節症へ移行するリスクもあるため、早期の診断と適切な治療介入が重要です。

 

 

 

主な治療法

 

保存療法
変形性股関節症の場合、減量により関節への負担を減らし、症状により痛み止め薬を使いながら、運動療法を積極的に行います。保存療法にて症状が改善せず日常生活に支障を来している場合は手術を検討します。保険適応外ですが、再生医療という選択肢もあるものの、効果には個人差があり、限定的です。

 

手術療法
手術には、骨を切って関節を調節する“骨切り術”や、傷んだ関節を置き換える“人工股関節置換術”があります。年齢が若く関節軟骨が残っている場合は骨切り術も可能です。骨切り術は、自分の骨を温存でき、動作制限もないので活動度の高い人に向いています。ただ、骨切り部が癒合するまでの時間がかかるので、社会復帰に少し時間がかかります。

 

手術療法〜人工股関節置換術
人工股関節置換術は、痛みの軽減に非常に効果的で、手術方法により術後早期より荷重歩行が可能であり、術後はゴルフやテニスなどのスポーツも可能です。また以前は人工関節の耐久性の観点から高齢者に行われる手術でしたが、耐久性が向上したことと、筋肉などの軟部組織の損傷を加えない手術方法の確立により、昨今は40代のような若年層でも手術を受け、旅行やスポーツを楽しむ方が増えています。

 

 

3次元術前計画

最適な位置に最適なサイズの人工股関節を設置するためには術前計画が非常に重要です。従来の方法では2次元のレントゲン画像を用いていましたが、当院では術前に撮影したCTの画像データをコンピューターに取り込み、コンピューター上で3次元の術前計画を立てています。

 

 

 

最小侵襲前方進入法(AMIS)とビキニ皮切

人工股関節置換術にはさまざまな進入法があり、同じ人工股関節置換術でも術者によって進入法が異なります。その進入方法は股関節の前方もしくは後方に大別されます。以前は国内でもっとも多く使用されていたのが後方進入法でした。後方進入法は展開が良いことが利点ですが、股関節の後方の筋肉と関節包(関節の袋)を切離しなければならず、脱臼率が高く、術後は動作制限がかかります。それに対し前方は手術の習熟度を必要とするものの、股関節周囲の組織へのダメージや脱臼も少なく、早期回復が期待できます。

 

筋肉を切離しない最小侵襲手術
2000年代初頭より国内でも、筋肉を切離しない最小侵襲手術(MIS)が徐々に普及してきました。MISにもいくつかの方法がありますが、当院では最小侵襲前方進入法(AMIS)という進入法を使用しています。AMISは、筋肉を一切切離しないだけでなく、筋肉以外の軟部組織も可能な限り温存する特殊な進入法です。関節包を一部切開して”窓”を開け、その”窓”の隙間から人工股関節を設置します。関節包の外にはほとんど侵襲を加えずに手術操作をするため、他のMISよりもさらに低侵襲であり、術後の痛みが少なく、早期回復が期待できます。皮膚切開の長さは体格や変形の程度などによって違いますが、約7~9cm程度です。ただし、股関節の変形の程度によってはAMISでは行えない場合もあります。

 

 

傷口が目立ちにくいビキニ皮切
人工股関節置換術は、一般的には皮膚のしわに直行する縦方向の傷口(縦皮切)になることが多いですが、皮膚のしわに沿った横方向の傷口(ビキニ皮切)の方がきれいで目立ちにくくなります。ビキニ皮切で行う最小侵襲前方進入法(AMIS Bikini)は、低侵襲なAMISの利点と、ビキニ皮切の美容上の利点を兼ね備えています。当院は女性の患者さまには、できるだけAMIS Bikiniで行っていますが、股関節の変形の程度によってはAMIS Bikini では行えない場合もあります。

 

 

最新の知見と確かな技術をもって、全力を尽くします

長年にわたり、私は膝や股関節を中心に多くの患者さまと向き合ってまいりました。関節の機能障害や痛みは、患者さまの生活の質(QOL)を著しく低下させます。その改善のため、私は常に「より体に負担が少なく、より回復が早く、より術後の制約が少ない」治療法を追求しています。「最小侵襲前方手術」は、まさにこの理念に基づいた治療法です。前方アプローチで行うことで、筋肉や組織へのダメージを最小限に抑え、術後の痛みを軽減し、入院期間の短縮、早期の社会復帰を可能にします。つらい痛みに悩む方が、再び自由に歩き、活動的な日々を送れるよう、私たちは最新の知見と確かな技術をもって、全力を尽くします。