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中高年で肩が痛い…。五十肩と思い込んでいませんか?
近所の身近な人に聞いたら、「それは五十肩だよ。ほっときゃそのうち自然に治るよ」とか「腕が自力で持ち上げられるなら腱板は切れてないよ」などと言われる機会が多くないでしょうか?外来診療中に我々整形外科医が良く耳にする患者さまからの言葉です。しかしながらMRI検査などもしていないので全く根拠がなく、責任も無い発言であり、肩関節業界の都市伝説的な話です。もちろん経験豊富な整形外科医や肩関節専門医なら、精密検査前にも経験的に診断できることもあります。それでは逆に中高年層に多い五十肩以外の肩関節疾患病名を皆さんご存知ですか?

 

 

 

中高年層に多い五十肩以外の肩関節疾患病名

●腱板断裂 ●腱板部分損傷(インピンジメント症候群) ●腱板断裂症性変形性肩関節症 ●変形性肩関節症 ●石灰沈着性腱板炎 ●リウマチ性肩関節炎 ●鑑別診断として頚椎疾患

 

 

肩関節疾患に対する診断

●主訴および病歴 痛み?脱力感?夜間痛?いつ頃から?外傷があったか?
●日常的な背景 年齢、職歴、スポーツ歴など
●画像所見:レントゲン 骨の状態(骨棘形成、変形、骨折、石灰沈着)
●画像所見:MRIまたはエコー 腱板、関節唇損傷、ガングリオン、炎症による水腫、筋肉の状態
●理学所見 可動域(動かせる範囲)、筋力低下や筋萎縮、知覚障害(しびれや感覚鈍麻)

 

 

鏡視下腱板修復術

全身麻酔下で関節鏡という内視鏡を使用した手術で、皮膚切開は約1㎝の小切開5か所(場合により+α)で大きく切り開くことはありません。周囲の筋肉などへの影響が少ない低侵襲の手術になります。関節内をカメラで観察し炎症組織などをクリーニングし、肩峰の骨棘を切除し、天井を高くして術後の腱板の通過性を良くしておきます。その後に断裂した腱を骨頭部の骨にスーチャーアンカーという固定器具を使用して逢着するものです。

 

 

リバース型人工関節

リバース型人工関節は日本肩関節学会で認められた整形外科医しか執刀できない治療法です。腱板断裂を放置すると最終的には腱板修復が困難となり、自力で腕を挙上することが出来なくなる(偽性麻痺)状態になってしまう場合があります。更には変形や痛みを伴うのが腱板断裂症性変形性肩関節症となります。このような症例に対して、リバース型(反転型)人工関節が2014年に日本に初導入されました。腱板機能を失った症例に通常型の人工関節を行っても十分な治療成績は期待できません。私は2012年にフランスに留学し本場でリバース型人工関節を学んできました。2014年4月に北海道にも導入され、第一号症例は私が執刀しました。現在も日本肩関節学会のリバース型人工関節講習会で認められた整形外科医しか執刀できません。リバース型人工関節の適応症例は、他にも変形性肩関節症や高齢者の上腕骨近位部骨折やそれに伴う続発症(骨折治療後うまく治らなかった症例)、リウマチ、広範囲腱板断裂、および人工関節後の再建などがあります。

 

 

 

適切な検査、正確な診断を受けることの重要性

私が他の医療施設を含めて十勝地域に関わるようになってから約10年経過しました。ちょっと郊外に足を延ばせば北海道らしい雄大な自然に囲まれた風景が広がり、それに心が癒されます。人間が生きていく中で“癒し“は必要不可欠であると思います。十勝では一次産業(酪農を含めた農業、漁業、林業など)が盛んなイメージがあります。肩が痛くても五十肩だろうと思い込み、繁忙期には我慢して酷使した結果、障害の程度が悪くなってしまうことも少なくありません。私は本当に五十肩?という疑問を持ち、適切な検査、正確な診断を受けることの重要性というのは、患者さまにとって、ご自身が治療法を選択するための判断材料になるということを強調しておきたいです。