みなさんは、膵臓や胆管の病気というと、なにをイメージされるでしょうか。膵臓であれば、難治の膵臓癌を想起される方が多いと思います。胆管ですと、胆管癌、胆のう癌という悪性病変はもちろんのこと、身近な病気として胆管や胆嚢の結石症を経験された方もいらっしゃるかもしれません。これら膵臓や胆管の病気は、いかに早期に、小さな病変を見落としなく指摘するかがその後の治療成績を大きく左右します。今回は超音波内視鏡という検査を通じて、多くの方が恐れ心配される膵臓癌、また胆管の病気、そして検査についてご説明します。
北斗病院 消化器センター 消化器内科部長 加藤 新
超音波内視鏡検査がもたらす膵臓癌の早期発見の可能性
膵臓癌では、病変が大きくなって症状が出てからの治療はあまり成績が良くない一方、早期に診断できれば良好な治療成績に結び付きます。ステージIV期(遠隔転移あり)の5年生存率が1.6%ときわめて不良であるのに対し、ステージI期(がんが膵臓内に限局し、リンパ節転移を伴わない)は56.2%、ステージ0期(膵管上皮内癌)であれば85.8%と比較的良好です。
膵癌の検査別画像所見
それでは、どのような検査を行うことで早期膵癌を拾い上げることができるのでしょうか。左のグラフにステージI期、0期膵癌の各画像検査(腹部超音波検査、CT、MRI)での拾い上げ成績をまとめました。ステージ0期はそもそも病変が膵管内に止まるレベルであり、まだ腫瘤として認識できませんが、明らかな腫瘤を呈するI期膵癌においてもこれらの検査での腫瘤の指摘率は50%程度にとどまります。この腫瘍指摘の感度を大幅に向上できる検査が、今回ご紹介する超音波内視鏡検査です。
超音波内視鏡検査の特徴
超音波内視鏡は、通常の上部内視鏡と異なり、先端にカメラではなく超音波装置がついており、胃や十二指腸内から膵臓や胆管を詳細に観察します。超音波内視鏡検査の特徴を下記にまとめました。
●空間分解能が高く、局所観察能に優れる。
●偶発症の危険が少なく、外来で施行可能。
●観察のみでなく、描出対象を穿刺できる。
●手技の習熟に時間を要し、診断能は術者の技術に依存する。
一番の特徴は、「空間分解能が極めて高い」ということです。わかりやすく言い換えますと、対象範囲をもれなく観察できる、ということになります。たとえばCTでは、通常5mm間隔のスライスで撮像するため、スライスの狭間の小病変は指摘できないことがあります。また、放射線を透過してしまう性質の構造(胆管結石の一部など)はそもそもどんなに大きくても写りません。
体内から超音波をあてるため、より検査の精度が向上
通常の腹部超音波検査では、超音波を使用している点は同じですが、おなかの外から超音波をあてるため、観察対象との間に腸管などのガスが存在するとそれに邪魔されよく見えなくなってしまいます。その点超音波内視鏡検査は、胃や十二指腸の壁に密着して膵臓や胆管を観察するため、消化管ガスの影響をほとんど受けずに観察が可能になります。超音波内視鏡を用いることで、ステージI期の膵癌の腫瘤指摘率は80%近くまで向上します。
CT検査では困難な胆管結石の診断にも効果を発揮
超音波内視鏡検査は、胆管の病気の診断でも絶大な力を発揮します。先に述べたように、胆管結石の一種であるコレステロール結石は、カルシウム含有量が少ないと白く映らず黒く描出されるため、胆汁との区別が出来ずにCTでの指摘が困難です。このような結石も、超音波内視鏡検査で確実に指摘が可能であり(下図)、胆管結石の診断感度は96%と極めて良好です。数ミリ単位の小結石ももれなく指摘できるので(3〜5mmの小結石の診断感度:エコーおよびCTで27%、EUSは91%)、見落としなく治療に結び付けることができます。
不要な治療を回避できる可能性も
また超音波内視鏡検査を行うことで、不要な結石治療を回避するという効果も期待できます。胆管結石の場合、詰まっていた石が自然と流れてしまうこともありますが、直後では症状も残存し血液検査でもデータは悪いままなので、流れたかどうかの判定は困難です。CTでも、そもそも結石がないという断定が困難です。超音波内視鏡検査で確認することで、既に結石が流れてしまっていないかを確認し、そうであれば結石治療をしなくても良いことになります。胆管結石の治療はERCPという特殊内視鏡検査で行いますが、この検査には急性膵炎を起こしてしまうリスクがともなうため、不必要な介入はなるべく行わない方がよいのです。超音波内視鏡検査を適切に実施することでそのリスクを回避することができます。
検査に対し最適な2つのタイプを使用
超音波内視鏡には「ラジアル型」と「コンベックス型」の2種類のタイプがあり、それぞれ長所が異なるため、当院では両タイプの最新機種を取り揃えて状況に応じて使い分けています。このうちコンベックス型超音波内視鏡は、対象を観察するだけでなく、必要に応じてカメラの先端から特殊な針を出し穿刺を行うことができるのが大きな強みです。これにより、悪性を疑わせる病変の組織の一部を採取し、確実に診断をつけることができます。手術や化学療法をする場合、事前の組織の診断はほぼ必須であり、超音波内視鏡検査は極めて重要な役割を果たします。
コンベックス型の特徴
超音波内視鏡は治療にも応用が可能
超音波内視鏡はただ穿刺するだけでなく、治療にも応用できます。胃や十二指腸から、近くの感染巣や胆道に針を刺してアクセスし、最終的にステントを留置することもできるのです。とくに最近注目されているのがHot AXIOS System(Bostonscientific社)というダンベル型の金属ステントと通電拡張カテーテルが一体化したデバイスです。これを超音波内視鏡下で留置することで、急性膵炎後の感染性嚢胞や切除困難な胆嚢炎の治療を効果的に行うことができるようになりました。この治療は技術認定を受けた専門医および施設でしか実施できませんが、当院では安全に施行可能です。また、消化器癌、とくに膵癌による強い疼痛に対して、超音波内視鏡下でおなかの中の神経叢(しんけいそう)に薬液を注入し、長期間にわたり痛みを和らげる治療をすることもできます。
高い技術をもつ医師による超音波内視鏡診療
以上のように胆膵系の病気の診断と治療に極めて有用な超音波内視鏡ですが、安全かつ正確な操作には高度の技術と熟練を要します。当院では、超音波内視鏡の専門家である医師(加藤 新:消化器内科部長、河瀬 智哉:非常勤医師)が在勤し、皆様に質の高い超音波内視鏡診療をご提供できます。
定期的な検診や検査から早期発見を
ご不安をかかえるすべての方に超音波内視鏡検査を受けていただくのが理想的ですが、アクセスや検査自体のご負担を考えると現実的ではありません。下記に早期膵癌拾い上げのためのフローチャートをお示しします。皆様には、引き続き検診やドックなどでの定期的な画像検査を受けていただき、膵管拡張や膵嚢胞など異常を指摘された場合はそのままにせず、当院を受診していただければと思います。糖尿病の初発や増悪も膵臓の危険サインの場合がありますから、ぜひ一度超音波内視鏡検査を含めた膵臓精査をご検討ください。胆管結石、胆嚢結石の治療も、超音波内視鏡を組み合わせることでより適切な方針をたてることができますから、遠慮なくお問い合わせいただければと思います。
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