多くの人が経験する口内炎ですが、まれにがんの初期症状である可能性があります。口内炎と口腔がんは見た目での判別が非常に困難です。今回の特集では見分けにくい両者の違いや、口腔がんの治療法について解説します。
歯科口腔外科
歯科医師
日本口腔外科学会専門医
和田 麻友美
口内炎とは
口内炎は頬の内側や口唇、舌、歯肉などの口腔粘膜に生じる炎症や潰瘍の総称です。最も一般的な「アフタ性口内炎」は、周囲が赤く縁取られた直径2〜10mm程度の白い円形~楕円形の潰瘍が特徴です。病態としては、粘膜表面に組織の欠損が生じることで接触や刺激に対して強い痛みやしみる症状を引き起こします。通常は特別な治療を行わなくても、10日から2週間程度の経過で自然に治癒していく疾患です。
口内炎の種類と主な原因
口腔がんとは
口腔がんとは口腔粘膜を覆う扁平上皮から発生する悪性腫瘍の総称です。組織学的にはその90%以上が扁平上皮がんに分類されます。舌や歯肉など様々な部位に発生しますが、日本人は特に舌がんが多く全体の約50%を占めます。全身のがんのうち口腔での発生頻度は約1%ですが、罹患・死亡率は増加傾向にあります。患者は50代以降の男性に多いのが特徴で、男女比は3:2といわれています。
口腔がんの部位別発生頻度
口腔がんの主な原因
口腔がんの原因は未解明な点もありますが、喫煙・飲酒・口腔内の不衛生が主なリスク要因です。最大の危険因子は喫煙で、非喫煙者に比べ罹患リスクは約5倍に跳ね上がります。次いで飲酒の影響も大きく、多量飲酒と喫煙が重なるとリスクはさらに増大します。また、未治療の虫歯や汚れといった慢性的な刺激や不衛生な口内環境も発症を促す要因として挙げられます。
口腔がんの主な症状
口腔がんの初期症状は粘膜の変色やしこり、形の変化などが挙げられますが、初期には痛みや出血が少なく、粘膜のただれで口内炎と混同されがちです。2週間以上治らない場合は注意が必要です。進行すると強い痛みや咀嚼・発話の困難、リンパ節や他の臓器への転移を伴うこともあります。口腔内は自身で鏡を見てチェックが可能なため、日頃から観察し異変があれば早期に専門の医療機関を受診しましょう。
口腔がん「7つ」のセルフチェックリスト
Check 01 口内炎が2週間以上治らない
Check 02 口内炎は初期に強い痛み、がんは痛みを感じにくい
Check 03 粘膜の色が白くなっている
Check 04 粘膜の色が赤く強くただれている
Check 05 表面がザラザラしたり、しこりを感じる
Check 06 歯肉の腫れや出血がある
Check 07 歯のぐらつきがある
口腔がんと鑑別を要する疾患
口腔潜在的悪性疾患(OPMDs)は、将来口腔がんに移行する可能性が高い粘膜病変の総称です。代表的なものとして白板症や紅板症があります。慢性的な刺激、喫煙、飲酒が主な要因です。自覚症状が少ない場合も多く、口腔外科等の専門医による早期発見と長期的な経過観察が重要です。
12個のOPMDs
●紅板症●紅板白板症●白板症
●口腔粘膜下線維症●先天性角化不全症
●咬みタバコ関連角化症
●リバーススモーキングによる口蓋病変
●慢性カンジダ症
●扁平苔癬
●円板状エリテマトーデス
●梅毒性舌炎●光線角化症(口唇)
口腔がんの検査・診断
口腔がんの検査は、視診・触診、病理検査、画像検査を組み合わせて行われます。
視診・触診
粘膜の変色やしこり、首のリンパ節への転移を直接見て触れて確認します。
病理検査
綿棒で採取する「細胞診」や組織の一部を切除し確定診断を行う「組織生検」があります。
画像検査
骨への浸潤を調べるX線、がんの広がりを3次元的に診る CT、軟組織を鮮明に映すMRI、リンパ節の構造やがんの深さなどを調べる超音波検査を用います。さらにPET-CTで全身への転移を、内視鏡で他部位への重複がんの有無を確認し、最適な治療法を選択します。
口腔がんの治療
口腔がんの治療は、発症部位や組織型、進行度に応じて決定されます。基本的には外科治療(手術)が第一選択となりますが、病状が進んでいる場合には手術前後に放射線治療や化学療法(抗がん剤)を組み合わせた集学的治療が行われます。
手術療法
口腔がんの手術は主に3つの手法を組み合わせて行われます。まず、がん本体と周囲の正常組織をあわせて取り除く「原発巣切除術」が標準治療です。次にリンパ節転移がある、あるいは可能性が高い場合には、周辺組織ごと摘出する「頸部郭清術」を実施します。そして、切除により失われた部位に自身の組織や人工材料を移植する「再建手術」を行い、形態や機能を回復させます。これらを最適に組み合わせ、根治とQOLの維持を目指します。
下顎歯肉がんの治療
原発巣を切除し、腓骨(足の骨)で再建を行いました。
放射線療法
手術での切除が不十分な場合やリンパ節転移がある際、再発予防を目的として術後化学放射線治療が行われます。これは放射線と抗がん剤を併用する治療法で、主に局所進行がんにおいて推奨される集学的治療の一つです。
化学療法
進行した口腔がんでは、再発リスクを抑えるために手術後の化学放射線治療が検討されます。また、がんの広がりから手術困難と判断された場合には、根治や症状緩和を目指した主軸の治療法として選択されることもあります。
「第5のがん治療」アルミノックス治療(光免疫療法)
がん細胞に結合する薬剤を点滴し、近赤外線のレーザー光を照射してがん細胞を破壊する「第5のがん治療」です。手術や放射線治療が困難な頭頸部がん(口腔・咽頭・喉頭がん等)の局所進行・再発例が対象となります。認定医のいる指定施設のみで実施され、頸動脈浸潤など出血リスクがある場合は禁忌です。効果と副作用を踏まえ、適応を慎重に検討する必要がある最新の治療法です。
受診の流れ
近隣の医療機関からの紹介状をお持ちいただき、お電話にてご予約ください。
口腔がんは初期症状が他の病態と似ていることが多く、早期の専門的な診断が極めて重要です。ご自身で判断されず、気になる症状がある場合はお早めにご相談ください。